北東北の世界遺産巡り
・・・・・・・・・・・・・河辺啓二の旅行(10)
早くも10月となってしまった。もう1か月半も前のことだが、今夏の思い出を綴ることとする。
〈官僚時代の思い出〉
農林水産省の官僚時代、出張でいろいろな地域に出掛けた記憶がある。北は北海道の札幌、南は沖縄、石垣島あたりまで行ったと思う。当時の先輩官僚によると、「農林水産業は全国各地にあるから」いろんな所に出張するのだよということであった。もちろん、行った先では県庁から夕食の接待があったが、何しろお役人同士だから、大して豪華な食事でもなく、高級なお店でもなかった。宴会や会食が好きではない私は、早く終わってホテルで寝たいとばかり思っていたものだ。
〈マイスターとなって初の世界遺産巡り〉
さて、コロナ禍3年めの夏・お盆休みは、東北の世界遺産巡りを実現した。役人時代、東北地方に出張で行ったかどうか記憶がなく、少なくとも青森・秋田・岩手の北東北へ行くのは人生初だと思う。昨年の縄文遺跡の世界遺産登録で北東北の世界遺産が一気に増えたことが当該地方に惹かれた主因である。
この海外に行けない3年間、国内旅行で多くの世界遺産を見学した。地元群馬の絹産業遺産はもちろん、京都・奈良の古都遺産、姫路城、(広島の宮島と原爆ドームはコロナ以前に行っている)福岡の宗像、長崎の軍艦島、沖縄のグスクなど結構見て回ったなぁと。ただ、これらすべて文化遺産であって、まともに自然遺産に到達してはいない。
ということで、今回の東北旅行では、初めての自然遺産見学となる白神山地(青森県・秋田県)、最新登録の縄文遺跡(青森県・秋田県・岩手県)、そして平泉(岩手県)を訪れることとし、最終日に日本三景の松島(宮城県)を巡ることとした。
北海道・青森・秋田・岩手の4道県の17遺跡(北海道6遺跡、青森県8遺跡、秋田県2遺跡、岩手県1遺跡)が「北海道・北東北の縄文遺跡群」として、昨年7月に世界文化遺産登録された。今回、そのうちの8遺跡(青森県5遺跡、秋田県2遺跡、岩手県1遺跡)を見て回った。最も有名な「三内丸山遺跡」内を歩いていると、又吉直樹がテレビ収録しているところに遭遇した。後日聞いた話では「BSよしもと」の番組だということであった。
今回世界的に評価されたのは、1万年以上もの間、農耕によらず、採集・漁労・狩猟により、豊かな自然と調和しながら定住生活を送っていたことだ。私たちは、子供の頃から世界四大文明のことを教えられ、それに比べ日本はたいそう遅れていたなんて思っていたものだが、実はそうでないという自信のようなものを今回の世界遺産登録で強化したのではないだろうか。さすがに遺跡の住居や建物はすべて復元されたものだが、住居の中に入ってみると、当時の縄文人たちの息遣いや日常生活がなんとなく感じられるのは私だけではないだろう。建物以外でも、ストーンサークル(「大湯環状列石」など)、多数の土器・石器、貝塚など、十分見応えのあるものばかりであった。来年夏は、今回行けなかった北海道の縄文遺跡を見学しようかなと思ったほどである。
〈白神山地〉
さて、私にとってはじめての世界「自然」遺産見学である。白神山地は、1993年に、法隆寺、姫路城、屋久島とともに、日本で初の世界遺産に登録されたものなのである(←世界遺産検定の基礎問題)。
実は、この8月中旬の時期、あの線状降水帯とやらで北東北は悪天候続きなのだが、(普段の行いがいいのか?)意外と大雨に当たることがなく、曇天か小雨かあるいは晴天(!)であったのだ。確かに当初予定していた「大平山元遺跡」は悪天候で断念したりもしたが、予定していた縄文遺跡見学は殆ど遂行できた。
東北に着いて3日目の朝、4日かけて行う縄文遺跡観光の間をぬって秋田県の「白神山地」に向かった。なんとこの日は、終日晴れていたのだ。ただ、前日までの雨のために規制があり、入って行ける範囲はかなり限定されていた。でも、最低限の「ブナ林散策道コース」は踏破した。美しいブナ林の間の道を歩くと心身ともにリフレッシュするのが実感できたものだ。特に、静かな水の流れが美しく、その水の冷たさは8月のそれと思えないくらいだ。そこで動画を撮ったものをここに示そうとしたが、情報量が大き過ぎるためか、うまくいかず。やむを得ず静止画とした。
〈平泉〉
世界遺産検定の教科書は、「基礎知識→日本の世界遺産→世界の世界遺産」の順に書かれている。日本の世界遺産の説明は、登録順ではなく、地理的に北から書かれている。ただし、「文化遺産→自然遺産」の順となる。ということで、日本の世界遺産のトップバッターに登場するのがこの平泉である。登録は2011年と決して早いほうではない。正しくは、「平泉-仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学遺跡群-」という。
確かに「遺跡群」であった。メインの中尊寺金色堂、そして毛越寺(もうつうじ)庭園以外は「跡地」が多く、縄文遺跡のような「復元」はチト困難かなと(竪穴住居よりはるかに予算がかかる)。「跡地」より印象に残ったのは、最後に訪れた(今のところ世界遺産に含まれてはいない)「達谷窟(たっこくのいわや)毘沙門堂」だ。中国の石窟寺院よろしく、岩を刳り貫いて出来た建築物で、何か独特の雰囲気があった。中尊寺金色堂の黄金像と同じくらいのインパクトが感じられた。
〈付け足し:世界遺産クイズ〉
ここで、日本の世界遺産に関してクイズを1問。
【問題】現在、日本の世界遺産は、文化遺産・自然遺産含めて25件あります。都道府県別で見た場合、最も多い都道府県は3個有しています。その2都道府県のうち1つは奈良県ですが、もう1つはどこでしょうか?
なお、世界遺産の数え方は、登録された遺産又は遺産群ごとに1件とカウントし、複数の都道府県にまたがる場合、当該都道府県に1個ずつとします。例えば、上記「北海道・北東北の縄文遺跡群」の場合、北海道1個、青森県1個、秋田県1個、岩手県1個とカウントします。
ちなみに、奈良県の場合、①法隆寺地域の仏教建造物(1993年)②古都奈良の文化財(1998年)③紀伊山地の霊場と参詣道(2004年)です。①②は奈良県で完結していますが、③は三重県・奈良県・和歌山県にまたがるものです。
【解答】岩手県
実は、岩手県なのです。かつての都を抱える奈良県と並んでいるというのは、岩手県人にとって誇らしいことでしょう。その3件の時代が全く異なることがまたおもしろい。〔1〕〔3〕は今回訪れた箇所ですが、〔2〕は行けなかったところで、いつか見学したいと思っています。
- 〔1〕平泉-仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学遺跡群-(2011年)←中世
- 〔2〕明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業(2015年)←明治時代
- 〔3〕北海道・北東北の縄文遺跡群(2021年)←縄文時代
〔2〕は、福岡県・佐賀県・長崎県・熊本県・鹿児島県・山口県・岩手県・静岡県と8県にもまたがるもので、最も有名なのは長崎の軍艦島ですが、岩手県(釜石)にも「橋野鉄鉱山」という産業遺産があることを忘れてはなりません。